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菅平合宿2013 『アライブ』

2013/08/16

 ラグビーの聖地・菅平。視界にあるのは100面を越えるラグビー場とキャベツ畑と雪のないゲレンデ。3回来るとなんだか故郷のような感覚になる。体のどこもかしこも痛みはあるが、延々と続く練習試合の緊張感と菅平という異文化を生きる非日常感が、何とか体を突き動かす。8月8日~12日、恵まれた晴天のもと伊藤組の菅平合宿が行われた。

1日目 
 かつてないほど順調にバスが菅平入り。初戦の相手は、細田学園と西武文理高校(ともに埼玉県)。相手校から依頼を受けての試合。相手との力差を想像すると、「攻撃力アップ」「BCの底上げ」をターゲットに、縦割りで2チーム編成とした。対細田学園メンバーは、コンセプトのある編成。経験者ゼロのベストチームだ。そして残ったメンバー、つまり経験者と初心者1年生らが西武文理戦メンバーとなった。

 西武文理戦は、序盤に軽はずみなボールのつなぎが多くのエラーを生み、ゲームに停滞感を出してしまった。「シンプルに、つながず前へ」に修正してからは、アタックが次々に相手DFを破り大量得点。74-0で勝利した。
 
 
 

 続く細田学園戦は、相手のBKの意図されたコンタクトプレーにはまり、なかなかボールを取り返せない。しかし次第に択海らバックスリーが走り回る展開に持ちこみ、こちらも大量得点。102対0で勝利した。ヤマトやユウヤに象徴されるように、FW一人ひとりのサボらない意識が格段高まっている。

択海
「いつもは自分までボールが回ってきても落としてしまったり捕まってしまったりと、自分の責任を果たし切ることができませんでしたが、今回はウイングとしての仕事をして、初トライを取りチームに貢献することができました。これからはもっと足速くなって、強いチームとの試合でも仕事が出来るようになりたいです。」
マサヤ
「菅平合宿初戦の西武文理戦、僕は夏休みまでの練習の成果を出し切り、戦いました。しかし、まだまだパスのスピードやボールをさばく速さなど、課題が沢山残ってしまいました。しかし、その課題から見えてきたやるべきことをこれからの練習で克服していきます。」


2日目 
 午前は単独練習。前日に出た課題に絞って2時間の修正練習を行った。
 そして午後相手は、この合宿で最大のビッグチャレンジと想定している東北の強豪・盛岡工業。昨年はAが前後半で完勝するも、相手の「もう一本やらせてください!」の嘆願を受けた追加マッチ(一本)は気迫に押されて終わってしまった。監督の「ラグビーはルールのあるケンカだ!」の気迫が盛岡工業の象徴だ。
 この試合もアタックとDFに明確で具体的な目標はあるものの、「花園予選のリハーサル」と意識し、「1点差でもPGを狙ってでも勝つ」のスタンスで試合に臨んだ。
 
 前半から一進一退の攻防。お互い意識するゲームメイクを出し合いながらも、双方あと一歩崩し切れず5-5というタイトスコアで折り返した。
 後半はゲームメイクを一転させた横高が効率よくスコアを重ねる。しかしDFでは、合宿前よりははるかに意識の高まったポジショニングで安定感が増したかにも思えたが、イレギュラーなピンチに対しては急に意識が淡泊になって、前半と同じ原因の失点。課題を残した。

 最終スコアは「24-10」。前半の勝つか負けるかのタイトゲームから、ゲームの状況を理解したゲームメイク修正による勝利。「花園予選のリハーサル」としては、非常に意義のある結果と言っていいだろう。

 続くBゲームは、大きなフィジカル差、力差のある相手に対して完敗。問題なのはスコアではなく、体を張ることや集中力と責任感を持続させることなど、絶対に折れてはいけないメンタルとプライドが折れてしまった。マコトなど若干名以外はまるで闘争心が伝わってこない。それこそ昨年の相手監督さんの「ラグビーはケンカだろうが!」のほとばしる魂が微塵もない。相手から完全になめきられての屈辱の時間。「7-41」のスコア以上に惨めな試合となった。
 
3日目
 午前、相手は早大学院。ワセダクラブというスクールができたこともあり、以前の素人叩き上げ集団ではなく経験者が豊富にいるらしい。
 試合展開は、前日の反省を生かして安定感が増したDFと走る意欲で圧倒。相手の闘争心溢れるFWのファイトと特徴的なラインDFにプレッシャー負けする時間もあったが、「51-5」の大差で勝利した。
 続くB戦では、昨日の屈辱の晴らすような気持ちの乗ったプレーで「33-7」の勝利。

 午後の相手は、千葉の佐倉高校。大黒柱となりつつあるBKの軸を午前中の試合での負傷で欠く状況となったが、DFと走る意欲で相手を圧倒したかった。
 キックオフから10分は横高が全試合までのようやりたいアタックを継続する。しかしペナルティーで仕留め切れないと、残り40分は完全に佐倉高校にゲームを握られてしまった。素早い集散、意思統一されたファイト、一瞬を逃さず、的確な判断でロングゲインを奪うクレバーなゲームメイク。佐倉高校の素晴らしいラグビーに対して、何とかDFで凌ぎ続ける。しかし10次攻撃以上を守り抜いてやっと手にしたボールなのに、ゲームメイク(というよりもゲームの流れの理解)が不正解。自分たちが苦しむような選択肢を選び続け、元気とフィットネスを自らすり減らし、インゴールを明け渡した。 

 自滅の感もあるが、佐倉高校の素晴らしいラグビーに完敗を喫したと言った方が正しい。そしてプレーだけでなく、試合中の自分たちへの厳しさや勢い、プレーへの本気度、集中力、試合後にすぐに全員が準備されたプロテインとゼリーを補給する意識の高さ。悔しいが何もかもが横高よりも上で、身を持って勉強させてもらった。

 合宿は、ラグビーストーリーは思い通りにはいかない。大勝続きで順調に終わるかに思えた合宿の谷は、まさにここにあった。
 近頃は勝ちながらに学びに慣れていたが、久々の敗北からの学び。負け慣れは絶対によくないが、負けから学ぶことがたくさんあることを経験させてもらった。

 
4日目
 いよいよ4日目。相手は昨年の最終戦と同じ早稲田実業。昨年は岩田組が大勝した直後、下級生のBチームがリンチとも言える無残な大敗。試合後どころか試合中にも泣きながら走り、タックルを試みてはズタボロに引き裂かれた(その直後の自主シボリの様子は、日経電子版や日経キッズプラスに記事にしていただいたとおり)。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK0700J_X01C12A1000000/?df=3
 あの日泣きながら走っては引き裂かれた選手たちが今年のAチーム。365日越しに屈辱を晴らすことができるか。やはり今年もこの最終戦のスタンスは「尊敬してやまない3年生のために」だ。
 15時半、キックオフ。試合は珍しいほどハンドリングエラーが頻発する冴えない展開。これまでのように激しいシャローを受けているわけでもないのに、ボールが暴れて記録的なほどノックオンが続く。
 そんなモヤモヤした展開だが、こだわりのDFで成長の跡を見せた。盛岡工業戦と佐倉高校戦を修正ポイントをそれぞれ意識したDFを我慢強くつづけ、相手のトライをバウンドしたボールのインターセプトからの独走の1本のみに抑えた。
 最終スコアは「46-7」。気持ちが空回りしたのか、アタックはこの合宿で最も悪い出来となったが、「1点差でも昨年の借りを返す」という目的は果たすことができた。

 続くB戦(20分×1)は、昨年ほどの差にはならなかったものの、「0-10」の完敗。スクラムを中心に木端微塵に粉砕された。
 しかし、昨年のリンチに遭ったメンバーたちがつい先ほど、大差でリベンジを果たしたという事実を見過ごしてはいけない。ルールもまだ定かではない初心者1年生が大半のB。今年も敗れたが、先輩たちの歩んだ道筋と背中を信じ、自分たちの可能性を信じきって、変わらずいっそうの努力を重ね、上へ上へと這い上がっていくだけだ。

 そう思うと、試合後は難しい総括をこねくり回すのではなく、一刻も早く上を見て走り出すだけでよかった。倒れた状態から、相手よりも早く起き上がり、走り出す。この夏の一大テーマとなっているプレー「アライブ(生き続ける)」だ。
 よってノーサイド後はチームトーク時間を最短で切り上げ、いわゆる「ランパス」!1年生から3年生までのそれぞれの想い、こらえごまかしていた感情が爆発するランパスとなった。


 最後の1本、全員で一つのボールを繋いで、キャプテンズトライで締め!と思いきや、この合宿で再び大きなケガを負ってしまった無念の3年生・チヒロがキャプテンからボールを託されてダイビングトライ。心優しい伊藤組らしい判断。46名の心が一つになった。
 
5日目
 最終日。例年なら早稲田大学の練習を見学して終わるが、残念ながら今年はウェイト日とのこと。ダボスできっちり合宿のおさらい練習を行った。
 もちろん締めはアゲアゲで100m上り坂ランパス!「出し切って終わり!」となる予定だったが、丘の上から向こう側に見えるダボス記念碑に心踊らされ、予定を急きょ変更。ラストの1本は丘の上からダボス記念碑まで片道500mランパス!
 (無意識の領域だが)無上の幸福感を味わうランで、伊藤組の菅平合宿は幕を閉じた。



 
トモマサ(キャプテン)
「今回の合宿のテーマは、動きつづけることと、低いプレー。自分もそれを意識して試合に臨みました。意識するだけでも、プレーは改善されることを感じました。しかし、自分のキックミスで試合の流れを崩してしまうこともあり、個人スキルをもっと伸ばす必要を感じました。公式戦のような緊張感の中で、堅くならずに落ち着いてプレーできるよう、精神面のコントロールももっと上手くなりたいです。花園予選まで残り少ない期間ですが、まだまだ成長します。」 
アサト(バイスキャプテン)
「高校ラグビー最後の合宿では、自分は試合で活躍することができ、アタックの力の成長ができたと思いました。また、FWリーダーとしてはFWはセットプレイの安定のなさやゴール前でのイージーミスなどの点が目立ち、まだまだ修正する部分があり組織として未完成だと痛感させられました。この合宿を終えてFWの一人ひとりの力がとても上がり、秋までにはもっと個人レベルとFWという組織でもレベルアップし、自分達がチームの強みとなれるようになりたいです。」
なつみ(チーフMG)
「三年のマネージャーが1人ということもあり最初は不安と責任感でいっぱいの菅平合宿でした。ですがモラル班や一年生の協力もあり忘れ物や大きなミスなどもなく余裕をもって行動することができました。今回の合宿でマネージャーも選手達と一緒に色々な面で成長できたと思います。またみんなの方が疲れているのに用意してくれた後輩達や自分の代からの心のこもった優しいプレゼントもすごく嬉しかったです。花園予選まで全力でサポートしていくのでよろしくお願いします!」 
ユウヤ(マンオブザキャンプ)
「本当に楽しくて、実りのある五日間でした。僕自身、一次合宿から掲げていた、アライブの意識を継続して持ち続ける事ができ、自信へとつながりました。その反面、タックルやボールキャリアーでの身のこなしなど課題も見つかりました。今後も、この課題を一つ一つ克服して、より良いプレーヤーになれるよう向上心を持って頑張ります。」 
拓実(FW賞)
「菅平の下界とは違う涼しく、酸素の薄い環境。初めての横高の合宿で心配なことも沢山ありました。でも入部してから二ヶ月間ラグビー部の道へと導いてくれた先輩や仲間のため、そして自分のために頑張りました。ところが、合宿前半は自分の思うようなプレイが出来ずチームのメンバーには本当に迷惑をかけたと思っています。横須賀に帰ってからは身体をつくって、タックルをしっかりと決められるプレーヤーになるため頑張ります。」
リョウ(BK賞)
「今回の合宿を通じて、自分は一回りも二回りも成長できた気がします。この合宿で得たものをさらにいかしていき、周りから信頼されるプレイヤーになるためにこれからも努力していきます。」 
ジュン(赤羽賞)
「今回の合宿はスクラムでしか活躍出来ませんでした。フィールドプレーでは何も出来ず、特にフェーズが重なると全然走れませんでした。目標であった低いプレーも未だ馴染まず、たくさんの課題点が見つかりました。今後はこの課題点を克服し試合でもっと活躍出来るようになりたいです。」


 
 夏が終わり、いよいよ花園予選が迫ってくる。1回戦スタートとなる今年は、初戦までに残された時間は、僅か1ヶ月半。
 新人戦の大敗シード落ち。本郷戦の勝利。日大戦の惜敗。夏からのリベンジ、またリベンジ。キャプテン・トモマサの人格のように、実直に誠実に、一歩ずつ、一段ずつ確実に強くなってきた伊藤組。

 ここで足を止めてはいけない。もう一段、二段高みに到達するために。いち早く「アライブ」を。まずは個から。
 ベスト8がかかる決戦から逆算し、伊藤組のテーマである「Responsibility」が自分にとって何であるのか、自分はどうすべきか。一人ひとりが考え、自分が決めたことに対して一人きりでアライブして欲しい。そんな46の個が10月に結集したら、きっと計算が不能な大きな力が生まれるに違いない。



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