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関東六浦戦  『諸刃の剣』

2014/01/13

「勝利を目指すのではない。我々は勝者を目指す。」

 1996年、私が大学1年のころ早稲田大学ラグビー部中竹組(中竹竜二主将)が掲げたチームの目標だ。「キックオフの直前までに、日本一になるにふさわしい努力を重ね、日本一にふさわしい人間・集団になる。そうすればキックオフ前にして勝利は決まったようなもの。あとは80分間のラグビーを楽しむだけ。必然の歓喜は訪れる」そういう発想だったと記憶している。

 しかし、勝負とは複雑だ。どんなに努力しようと、実は相手も切実に努力している。運も影響する。相手があるラグビーにおいて「キックオフ前に勝利が約束されている」とは決して断定できない。今はそう思う。

 ただそれでも勝つにふさわしい準備があり、勝つにふさわしい集団となっていない限り、勝利の可能性と権利すら持ち得ていないというのは真実だろう。

 新人戦決勝トーナメント、関東六浦戦。キックオフ前から「未だ勝利の権利を持ち得ていないチーム」であることを実は自覚しての戦いだった。

 

 先にゲーム内容をまとめておく。闘将と言っても大げさでないほど体を張り続けるキャプテン津田とバイスキャプテン駿介。それに続くように、ケイスケやリョウら2年生が延々とタックルを繰り返した。ボール保持率は1対9の不利。しかしそれこそが想定であり型でもある。現時点で津田組が唯一のラグビーが「DFで粘り、チャンスを最短フェーズで得点に結びつける」だ。

 先に狙い通りの「最短フェーズ」で2トライを奪ったが、前半の最後に「キックオフサイド」と「スクラムでのキープミス」をそれぞれ2回も連続して犯すという自滅で失トライ。「12-7」のリードで折り返した。

 しかし前半早々に攻守の軸であるSH・フウタが骨折で退場すると、続いてNO8拓未とFLヒカルも負傷退場。さらにはHOトオルとFLマコトも負傷退場。体を張れる5名の負傷退場でリザーブ全員を出場させた後半は、関東六浦のアタックの前に全く対抗できなくなってしまった。

 関東六浦は後半になってアタックを修正し、横須賀が弱い箇所を的確に見極め、攻め続けた。関東六浦の重厚なアタックと判断は見事だった。最後10分はフィットネスも尽き、やられたい放題。「15-44」でノーサイドとなった。

 5名の負傷退場。実は前日の練習でも司令塔であるSO駿介とFBアキヒコが負傷しており、全体練習を半ばで急遽打ち切った。WTB勝負と掲げていたのに、WTB択海も6日前にケガで離脱。1月に入ってからケガの連続。しかし仮に誰一人ケガがなかったとしても、関東六浦に勝つことは到底できなかっただろう。花園予選メンバーが10名ほど残った強豪・関東六浦に勝つにふさわしいチームには、残念ながら全くなっていなかった。

 伊藤組のリョウスケ・シゲルらムードメイカーが抜け、津田組の練習はいつも暗かった。2年生は目的意識を明確に持って練習しているのはよく伝わってくるが、多くの1年生は「こなしているだけ」の空気と言わざるを得なかった。伊藤組のユウマのように「先輩に挑み続ける」気概も全く見えない。

 新チームはかつてないほど「個人練」の時間を多く与えているが、小手先のスキル練習ばかりに時間を費やし、自らハードに鍛える選手は存在しない。

 関東六浦戦の前日も当日アップ前も、目の前にスペースも時間もあるのに、メンバー外の選手が誰一人として個人練習をする気配はなく、ストレッチに見せかけたおしゃべりで時間を浪費していた。

「監督や先輩から提示された練習だけ、そこそこ本気で取り組む」だけ。厳しく怒鳴りつけたり縛り付ける監督でも先輩でもないのだが、自発性が全く表現されない。

 

 伊藤組の敗戦をうけ、新チームは「自主性」と「選手主導」を意識して歩んでいる。個人練、ストラテジー班作成練習の時間は昨シーズンの倍近く。その他の練習メニューや戦術においても、かつてないほど選手たちと意見交換しながら作り上げている。
 
チーム作りは難しい。「監督主導」の色が強かったに違いない岩田組や伊藤組の方が、今よりはるかに自主的に当事者意識を持ち、自分で自分を鍛える選手が多かったという不思議。 

 練習に僅かな合間があれば、丸山詢平は勝手にフィットネスを行っていた。全体のクールダウンが終わった後なのに、濱須涼平やユウマは訳も言わず一人きりでダッシュを繰り返していた。岩田健太は与えられた練習メニューが抱える問題点を常に想像し、自分の納得いくポイントを全員に伝えた。
 自主か管理か。自主こそが美徳と謳われがちだが、大学のチームには「自主性」を掲げては崩壊しているチームが、それは数多く存在する。自主性が選手に逃げ道ばかりを与え、指導者が責任放棄しているだけの場合もきっとあるのだろう。

 

津田

『自分はこの試合で、低く一発で倒すタックルとロングゲインを目標にしていました。タックルに関しては、何本か達成出来ましたが、ボールキャリアとしてチャンスを作る事は出来ませんでした。それに、モール周りの自分のミスで流れを止めてしまう場面が2度もあり、大事な時こそ落ち着いてプレー出来るようにしないといけないと思いました。とても悔しい結果でしたが、この悔しさを忘れずに、前向きに努力して、もっとすごいプレーでチームを引っ張って行ける存在になりたいです。』

ヒカル

『自分はこの試合負けたことよりも最後までプレーできなかったことが悔しいです。あの時怪我をしなければ。悔しさで胸がいっぱいです。しかしいつまでも悔しがっていても意味が無いのでこの悔しさをバネにこれからも頑張りたいと思います。』

マサヤ

『僕自身横須賀高校での初めての公式戦、形はどうであろうとこのチャンスを逃すわけにはいかないと思いました。試合中のパス、タックルは成果を発揮できましたが今回負けてしまったのは自分の判断力とヒアリング力の無さだと実感しました。もっとゲームをコントロールできるスクラムハーフになるために日々の練習に必死で取り組みたいと思います。』

 

 

「自由」と「自主」は諸刃の剣だ。素人集団である横高ラグビー部においては、「強制」と「管理」が手っ取り早い強化の手段であることは分かっている。今ここで「監督主導」「ハードなメニューの強制」路線に移行し、傾きを多少上向けることは簡単だ。しかしそれでは、横須賀高校ラグビー部としての進化はできない。戦力が落ちたのに、伊藤組の上までたどり着くことはできない。

 勝つにふさわしくない集団から勝つにふさわしい集団・勝者へ。この関東六浦戦を津田組の分岐点にできるか。諸刃の剣である「自主」への挑戦は、引き返してはならない。

 

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