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夏合宿2015 『心、一つに』

2015/08/13

 菅平。配色はひたすら緑と青。視界にはあちらこちらに立っているH型ポールとキャベツ畑のみ。小さな町に100面を超えるラグビー場を持つ、世界でも稀な異空間。戦地にして聖地。ここに立つことができる幸せは、選手生活を終えれば分かる。ここには下界と異なる文化「スガダイラだから」が存在する。いかなる試練やストレスも、何も気にしない。全てを笑って受け入れるタフさこそを求められる。

 順調に宿に着き、選手たちは早速「スガダイラ」に直面する。なんと、部屋がない・・・。宿の都合で、初日は部屋が確保できておらず、小さな会議室に布団を敷きつめ、40名がそこで一晩過ごすことになった。物理的不可能だったのか、身体を重ね合わせて寝た部員もいたようだ。「まぁスガダイラだからね」と笑えばいい。

 初日午後の相手は、新潟2位の新発田高校。北信越大会はBブロックで優勝。北信越の王者・新潟工業や外国人パワーで花園を沸かせる日本航空石川と対戦しても、五分五分に近いスコアで敗れるなど地力は証明されている。ウォームアップでパス回しを見ただけで、横須賀より格段上手いことは明白だ。

 試合は一進一退の緊張感を保ちながらも、横須賀が意図する型でトライを重ねた。最終スコアは「24対0」。とはいえ、インゴールまで独走したBKが片手でボールを抑えようとしてノックオンをするなど、BK中心にひどく注意力を欠いたエラーが多かった。引き締めないと、翌日の盛岡工業戦はまずい。そんな危機感の高まるゲームとなった。

 Bチームは依然として「ラグビーを覚える」程度の内容。「前に出て倒す」をタケルなどが意識できたこと以外は、特にいいところもなく「0対25」の完敗。BKは無意味なサインプレーにこだわってチャンスを捨てては、DFでも経験のなさから切り刻まれた。

 ABともに反省すべき初戦。ありがたいことに、美味しいデザートがついていた。相手に帯同するスクラムコーチは、南條賢太さん。かつて明治大学の黄金時代にキャプテンを務め、神戸製鋼でも活躍した超有名人だ。
  ゲーム前に「アフターでスクラムを」と誘っていただいたので、組みながらアドバイスをいただくつもりでFWはあちらのベンチに伺った。話は・・・やや違った。新発田高校に足りないものは闘争心と前に出る気迫だと感じていたのだろう。スクラムの合間に「ショットガン」と呼ばれる激しい連続コンタクトトレーニングが始まった。いや、ショットガンの合間に少々スクラムか・・・。

  南條さんの厳しい叱咤を受けながら必死に闘ってくる新発田高校、それに立ち向かう横須賀。骨と肉のきしむ音が響く。想定外の展開。これも「スガダイラ」。FWにとってはありがたいトレーニングを積むことができた。

 

  2日目、午前は埼玉のB対細田学園らの合同チーム(埼玉)。合同チームとはいえ、1年生試合が当たり前だった横須賀B。3年生もいる相手へのチャレンジとなった。
  前半は普段Aのリザーブに入っているメンバーが力を見せつけた。テンポよくボールを散らすと、択海が力差を見せつける走りでトライを重ね、「29対0」の大量リードで折り返すことができた。

  後半、ほぼ1年生のみの構成となってからは一気に劣勢。ボールを出せないFWとDFできないBK。後半だけのスコアは「0対24」。トータル「29対24」。辛くも逃げきって勝利というより、「いい加減に変わらないと」という危機感だけが残る試合となった。にも関わらず、アフター練習もひどいぬるま湯。Aの先輩が煽って闘争心を掻き立てるメニューを課しても、一向に自分の甘ったれた殻から出ることはなかった。


  午後、この合宿で一番の強敵と想定している相手・盛岡工業(岩手2位)。昨年はボッコボコのリンチ(25分1本で0対33)に遭った。3年生にとっては、一昨年の1年生時にもBとして粉砕されている(7対41)。鍛えぬいたフィジカルと闘争心。イケイケに見えて実は緻密な戦略。上級生にとっては、過去2年の光景がよみがえり、覚悟を決めたような緊張感が漂った。

  確かにミスは多くあった。不用なペナルティーで自滅した。しかし、攻めても守っても、チームの雰囲気はかつて最高だった。体を張り、闘志を持ち続け、合間のたびに冷静で的確なチームトークを経て、ポジティブに次のプレーに切り替えることができた。最終スコアは「47対10」の完勝。宇野組にとって、「こう戦えれば勝つ」の自信を得ることができた。

  Bゲームは「5対36」の敗退。しかし、今までとは異なり「体を張る」「恐れず刺さる」など、自分の殻を破り、大きな一歩を踏み出すことができた選手が多かった。先ほど完勝した3年生たちも、2年前は盛岡工業Bに粉砕されたのだ。今日踏み出したこの一歩を忘れず、二度と自分の甘ったれた殻に戻らなければ、先輩たちのように闘える男になれるはずだ。
  Aはチームとして、Bは個人として、この午後で大きな何かを掴むことができた。

 

  3日目、午前は唯一の練習。合宿後半戦に向けて、やるべきことを整理した。雰囲気はポジティブで非常にいい練習だった。
  午後、相手は福島1位の平工業。県チャンピオンとして、今や花園の常連校。前日の盛岡工業戦に気持ちのピークを持って行ったが、この日も「ピークの上のピーク」のつもりで気持ちを高めなければならなかった。

  キックオフ前、並んだ瞬間に一目瞭然。横須賀より遥かにデカい。FW平均体重で10キロ近く差があるかもしれない。ウォームアップのドリルからも、重量級のタテタテタテ。この試合の焦点は明白だった。相手の強みであるFWクラッシュにファイトできるか、倒すだけのタックルは要らない。圧倒するダブルタックル。昨日の盛岡戦で最も成長を証明した部分だ。

  ゲームは序盤から横高ペース。型どおりのトライだけでなく、相手FWの重量クラッシュを10フェーズ以上守ってターンオーバーから一気に独走トライも奪うことができた。しかし、プレッシャーのかかっていない状況でのBKの単純なエラーが続き、勢いに乗れない。スコアは差が付き始めるものの、「上手くいっていない」感触が消えなかった。
  後半、ケガの都合で14人で戦う時間があったことの影響もあり、アタックが消極的になってしまった。安全なアタックに逃げ込んだ結果、停滞感を自ら作ってしまった。最終スコアは「45対7」。スコア上は完勝に見えるが、やりたいアタックがあまりできていないゲームだった。

  Bはこの試合が大きな分岐点。前日に見せた成長をさらに進めるのか、また闘えない集団・闘えない男に逃げ戻るのか。相手を見ればすぐに分かっただろう。平工業BはAのメンバーが半数以上のこった構成だった。相当タフな展開が予想された。

  結果は「5対10」の惜敗。前日を超える闘争心が十分みられる内容だった。勝てる可能性が確かにあった。敗因は「ポジションスキルの未熟さ」。初めて「闘争心」以外の理由で敗れた。情けなさとチームメイトへの申し訳なさがのしかかる。一人ひとりが自分のポジションの技術を高めること。この責任が、実はいかに重いことなのか。勝つことはできなかったが、この日も一段成長することができた。

 

  4日目、最後のゲーム日。試練でありチャンス。チームの絶対的大黒柱、キャプテンのアキヒコがいないのだ。平工業戦のラストワンプレーで足首を負傷してしまった。精神的、戦術的支柱を欠く宇野組。明彦には悪いが、願ってもないチャンスでもあった。

  この合宿では、チーム力強化に加えて、合宿後のビッグゲームへの準備という例年にない意味を持っていた。8月19日、日英親善試合。相手はイギリスの超名門・セントポール校。詳しくは文末で記すが、日本を代表して戦う国際試合。そんなゲームだが、実はアキヒコ抜きで戦わなければいけないことが決まっていた(神奈川選抜チームの選手として国体関東ブロック大会に出場のため)。19日の決戦までにアキヒコ依存から脱する必要があった。
 
  午前の相手は、早大学院。例年はAで大勝。昨年はBで臨み大敗を喫した。Aは25分×1のみ、Bは20分×2。
  ゲーム前の雰囲気は良かった。しかし、ゲームの入りは合宿で最悪。上手くやろうとしたのか、無理なつなぎでノックオンを連発。ミスミスミスで一向に流れに乗れない。アキヒコ不在の若いフロント3はタイミングが全く合わず機能不全。PKからノータッチを繰り返すなど、無駄な時間で時計は進んだ。最終スコアは「26-0」。勝ってひたすら反省となった。

  BゲームはBKのDFが相手に太刀打ちできず、「12対27」で敗北。FWはある程度気持ちでタックルできたが、BKのDFに必要な経験が足りなかった。
 
  試合後、ゲームキャプテンのシンがチーム全員に全力の生タックルを課した。仲間同士、延々と本気で刺さりあった。アタッカーも本気でタックルを壊しにかかった。ケガが出る前に「ラスト1本」を私から告げ、チームミーティングで終わらせた。輪の中からは、「何も変わってないじゃねぇか!」「全然戦ってないヤツ、ふざけんじゃねぇよ!また後戻りだよ!」怒声が響き渡った。「終われねぇよ」シンは生タックルの再開を指示した。

  この合宿で元気なく調子を落としていたハルミが、いい友達でありいいライバルとも言える好調のコウイチロウと闘った。倒した後も、ボールを捨ててお互いがレスリングのごとく闘い続けた。私の涙腺にやや触れやがった。
  前日もそうだったが、相手の実力が上だっただけで、1年生たちはこの試合でも着実にステップアップできていると思っている。それでもシンは、タイガは、己たちはよしとしなかった。

  「相手が自分たちより強かったから負けた」この理にかなった当たり前の事象を認めなかった。そうだった。これが横高ラグビーのプライドだ。自分たちよりも強く、上手い相手を倒す。倒さなければならない。これが横高ラグビーの使命であり、存在意義なのだ。前日までにやっと「ラガーマン」になってきた1年生。この生タックルで「横高のラガーマン」に確かに近づいた。頑張れ!頑張れ!

 
  午後、ついに迎えた最終戦。相手は福島2位の福島高校。先月の全国セブンスに出場するなど、BKが自慢のチーム。前日に福島1位の平工業に「45-7」で勝利していることからも、差をつけての快勝が期待された。開始10分で、横高の選手たちの顔色が変わった。

  「ここにいたのか・・・」魔物がいたのではない。本物の強敵が、ここにいた。
 前日まで独走トライをしていた場面で、抜けない。いや、抜けるがすぐに次のDFが追いすがってくる。抜け切れない焦りが、ミスを誘発する。再三ラインブレイクするも、仕留めることができない。普段であれば「自滅」の苛立ちが生じる流れだが、この日は明らかに違った。「この相手、偽りなく強い」

 ランとキック、常に横高のDFを観察し、全てのチャンネルを選択肢としたアタックは見事としか言いようがなかった。芯をとらえたタックルは少なく、ほとんどが抜かれかけたところをアシストDFが何とか助けた。
 強い風上の前半を終え「0対0」でハーフタイム。焦りや苛立ちはない。素晴らしい相手とのクロスゲームを楽しむ雰囲気だった。おそらく激しい痛みに耐えながら顔色を変えずにグランドに立つキャプテン・アキヒコがチームのメンタルを支える。

  この日に掲げたテーマは「一つになる」。最終スコアは「12対0」。福島高校のおかげで、プレー中のAも見守るBもマネージャーも、感情的に一つになることができた。
 そして迎えたBの最終戦。2~3年生が9名出場する福島高校Bに対して、十分に気持ちで立ち向かった。よく走り、よく闘った。合宿前とは別人と化した一人一人が最後の瞬間まで勝利のために、仲間のために、己のプライドのために体を張った。残念ながら「5-10」でノーサイド。「ふがいない」「情けない」よりも「勝ちたかった」の感情が溢れた。目に涙を浮かべる者も多くいた。そんな試合だったからこそ、この試合中も46人が一つになっていた。



  最終日の朝は、昨年雨で登れなかったダボスの丘へ。この日が最終日だが、セントポール戦に向けたリスタート。アキを抜いたメンバーでチームアタックを反復した。そして、2年ぶりの上り坂ランパスとダボス記念碑までの300mランパス。

  最後はダボスの丘で「全ての方々への感謝」「宇野組が一つになれたこと」「最後の季節への決心」などを胸に、坂東武者を斉唱した。円陣を組み、拍手でこの素晴らしい合宿を締めくくった。

1年生

2年生

3年生



キャプテン・アキヒコ
『高校生活最後の菅平合宿ということで例年よりもあっという間に終わってしまった気がしました。個人としてはDFで抜かれないことを目標としていましたがまだ完璧とまで言えるものではありませんが成長できたと思います。チームとしては雰囲気良く、厳しい試合を勝ちきれたことなど変われたことが多くありました。花園予選まで残された時間はわずかとなってしまいましたが一人一人が努力を重ね、更なるレベルアップをしていきます。応援よろしくお願いします。』
 
バイスキャプテン・ショウ
『高校最後の合宿は本当に楽しくてあっという間に終わってしまいました。FW全体としてはまっすぐ来る相手FWに対してゲインラインを超えさせない力強いタックルなどができるようになりました。ですが、まだまだ改善すべき点があるのでそれらを克服し、秋までには更にレベルアップをしていきたいです。』
 
マンオブザキャンプ・ミチ
『今回の合宿で、今までなかなか出場できていなかった分思い切りプレーすることができ、自分の課題と強みにできそうなプレーが見つかりました。しかしそれと同時に、二年生なのにBチームに出ていることへの悔しさ、惨めさを感じました。自分の努力がまだ足りていないので、これからの時間を大切にし、強くなります。』
 
FW賞・タツヤ
『自分たちの最後の合宿が終わってしまいました。今回は強豪校揃いで大きい選手達と勝負することが多かったのですが、目標としていた前に出て相手を倒すタックルができたと思います。この合宿で苦手だったディフェンスでの課題を克服することができました。花園予選までの残り数ヶ月、アタックもディフェンスも活躍できるように横高のグラウンドで練習に取り組んでいきたいと思います。』

BK賞・シン
『自分はこの合宿でBチームキャプテンをやらせてもらいました。Aチームでプレーしたかったから正直悔しかったし、すぐに良いプレーをしてAチームでやりたいと思いました。でも現実はそんなに簡単じゃなく、難しいサインプレーや無駄なことをするあまり自分のプレーをできないまま時間が過ぎていくのみでした。いつもアキ先輩に言われることを理解してるつもりでも、伝える側になるとうまく伝えられず、理解度の低さを痛感しました。
  この合宿で自分はウイングなのに0トライでした。最後の福島高校戦の終わったあとに悔しさと自分の無力さにすごい腹がたち、泣いてしまいました。もうこんな思いをしないためにもBK賞をもらったからには横須賀のグラウンドで自分のプレーでレギュラーの座を勝ち取るためにがんばります。』
 
赤羽賞・トウイ
『今回の合宿では、ディフェンスに速く並ぶことを意識しました。結果、自分の新たな強みが見つかりました。また、個人レベルで修正したいこともたくさん見つかったので横須賀のグラウンドに帰ったら長所を伸ばして、課題も修正します。』
 
敢闘賞・コウイチロウ
『あっという間の合宿でした。菅平に登ってからチームがひとつになったと思います。Bチームは最初タックルから逃げたりしていたけれど、最後にはみんなの闘志がチームをひとつにしたと思いました。今回の合宿で学んだことを忘れず、練習に望みたいです。』
 
敢闘賞・ツバサ
『初めての菅平合宿は自分で思っていたよりも辛く苦しいものでした。ですが得たものも非常に多くとても充実した5日間となりました。特に今まで怖くてあまり入れなかったタックルに入れるようになったのは大きな進歩だと感じています。このような賞を頂けてとても嬉しいです。これからもこの賞に恥じないように日々の練習に全力で取り組みます。』
 
監督特別賞・大和
『この合宿を通じて、自分はタックルにいくことへの気持ちを大きく変えることができました。しかし、まだアタックやDFのセオリーなど理解していない部分が多く、結果を残すことができていないので、横高での練習を大事にしたいと思います。また、最終日に監督賞をいただけたことは、本当にうれしかったです。これからもさらなる努力を重ねたいと思います。』
 
監督特別賞・シュンスケ
『今回初めての合宿でしたが、多くのことを学べた、実りある5日間になったと思います。菅平も、涼しくてとても良い場所でした。合宿最後の試合で勝てなかったのはとても悔しかったので、今回の経験を糧にこれからも成長して、来年の合宿ではリベンジします。』


 
  菅平を発つ直前、サニアパークに立ち寄った。この合宿の先にある一世一代のビッグゲームの相手、セントポールズスクールを見るためだ。
 創立500年以上の歴史を有する英国屈指の名門校。フットボールが手を使うか否かでサッカーと分かれた時代に、ラグビー校とともに手の使用を認めたルーツ校でもある。
 9月にイギリスで行われるW杯のPRも兼ねて来日し、京都で同志社&洛北との試合を終え、前日に菅平入り。この午後に国学院久我山と常翔学園のミックスチームとの対戦だった。残念ながらバスの予定もあるので、見たのはアップ直前のグランド入りのみ。

 未知の相手、想像だけでゲームを迎えなくて、本当に良かった。「15歳~17歳(1~2年生)だし、もしかしたら意外と・・・」の淡い期待?を1ミリ残さず消滅させてくれる選手たちの姿。オーラの次元が違う。英国の超一流らしい気品と圧倒的なサイズ。社会人かと思わせる風貌の選手も多い。
 
 初めて、自分たち以外の何かを背負って戦うゲームになる。我々は数ある日本の高校から選んでもらえた代表なのだ。善戦やいい経験など求めてはならない。「本気で勝ちにいく」責任と使命がある。
  8月19日、16時30分キックオフ。日英親善試合・VSセントポールズスクール(日本遠征の最終戦)。たくさんの応援、よろしくお願いいたします!!
 
 注 YCACは飲み物の持ち込みが禁止となっています(施設内でビールやドリンク類を販売します)。駐車場もかなり限られますので、電車でお越しください。
http://labola.jp/stadium/yc_ac_yokohama_country_athletic_club/map









 

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