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英雄たちの救い 「ヌノマキ」来たる

2016/02/07

 私の赴任以来最大の苦しみの渦中にいる。グランドに立つ全ての人間が、あがき、もがく。必死のプラス思考で毎日自分を突き動かす。無理して大きな声を絞り出す。しかし光は射していない。前回の記事にも書いたが、1月5日の練習初めから苦しみのトンネルは始まった。もうこの際書いてしまうと、1年生の退部が止まらない。普通なら1年目の夏に起きるような退部感染症が、なぜかこの時期に猛威を振るっている。

 なんとか辞めるのを留まらせようと、先輩も同級生も莫大なエネルギーを説得に充てる。もうヘトヘトに疲れ切った心で、グランドに立つ。グランドの雰囲気は重く痛々しい。強化や成長などに集中できるわけもない。そんな状況で行った3試合(法政との練習試合、日大との新人戦、総合との市大会)だから、当たり前だが内容も結果もひどく、不運にもけが人まで多発してしまった。どん底から立ち上がろうと奮起すると、「お前もか」また退部者が出る。


 夏を乗り越え、3年生の引退の瞬間の涙を経験し、当事者としてメンバーに絡むようなった。自主性路線により「権利」と「自由」は以前より遥かに増した。
OFFも増え、息抜きのチームビルドも適度以上に行った。先輩後輩の繋がりもより強め、オンリーワンの役割も全員が持ち、これ以上辞めないためのミーティングも行った。常に考え、やれる努力はやり尽しても辞め行く人間は後を絶たず、残った人間たちがボロボロの心でグランドに立っている。

 そんな苦しみが天に伝わったのか、まるで助けに来るかのごとく、英雄たちがグランドにやってきた。


 

1月27日、西田創さん(東福岡→立教大→NEC

 以前に何度も来てくれている西田さん。私が立教大でフルタイムコーチ(実質ヘッドコーチ)を務めていたとき、一心同体のごとくともに戦い抜いた同志。彼と過ごした2年間は対抗戦1部で2年連続で青山学院大に勝利。その戦績はあれから10年経つが、未だ塗り替えられていない。決してスター街道ではない。東福岡時代、スタメンになかなか選ばれない苦しみも味わっている。立教時代、うまくいかぬチームワークに大粒の涙を流したこともある。その道のりは、喜びよりも何倍もの苦しみを乗り越えてきた。


 実直、誠実、謙虚、あくなき向上心、そして熱い反骨精神と不屈の魂。プレーを教えてもらうというよりも、心ひとつでどんな壁をも乗り越えていく人間を感じて欲しいと思い、はるばる来てもらった。

 
西田さん
『久しぶりに横須賀高校のグランドにお邪魔し、短い時間でしたが一緒に練習させていただきました。
ありがとうございました!

 以前練習を拝見した時と変わったのは、選手主導で練習が流れていること。それは、監督に引っ張ってもらうよりも楽かもしれません。楽しいかもしれません。ただ、間違いなく困難な道です。そしてやりがいのある道です。

 これから皆さんが目標を達成できるかどうか、横須賀高校でしか味わえない心から充足した日々を送れるかどうか、自分達の手に委ねられてると捉えて、本気でラグビーをエンジョイしてください!

 練習の最後にコメントさせていただいた通り、やってる練習内容はどのレベルでもさほど変わりません。フィジカルの強度と練習のクオリティ(スキルレベル)、練習に取り組む姿勢が変わるだけです。

 皆さんの手で、また新しい横須賀ラグビーの歴史を創造してください。ありがとうございました!


2月6日、岩田健太、濱須涼平、丸山詢平、大高将
樹、高橋狩武

 横高ラグビー部のレジェンド、岩田組の英雄たちがやってきてくれた。関東大会Fブロック優勝、本気で桐蔭を倒すのではと期待された代。来てくれた岩田、濱須、丸山の3名はその代の中心であり、国体オール神奈川のメンバーとしても活躍した。以前にも来てくれた立教大のチームメイトの大高将樹(柏陽→早稲田中退→立教大)と高橋狩武(柏陽→立教大)は、それぞれ柏陽というラグビー無名校出身(かつての教え子)なのに立教大のバイスキャプテンとゲームキャプテンを務め、昨シーズンは対抗戦1部で明治や帝京と戦った。

 憧れるに十分すぎる偉大な先輩たち。現役部員たちの中に入り、一緒に動き、手取り足取り心を込めて熱心に指導してくれた。ラグビーが好きでやっていて、ラグビーを楽しんでプレーしていることは一目瞭然だっただろう。

 我々は今の自分でできてしまうことやっているのではない。まだ届かないものに挑戦をしているのだ。辛いときや立ちはだかる壁は当然ある。ラグビーの本当の楽しさが今はなかなか見えてこなくとも、この壁を乗り越えればラグビーをもっと愛し、楽しめるようになる。気が付けばかっこいい男になっている。彼らがその生き証人。

 

 

2月7日 布巻峻介さん

 嘘ではない。ほんとにあの「ヌノマキ」だ。高校1年生で「怪物現る」とラグビー界に強烈なデビューを果たすと、2・3年では花園連覇。2年時は高校日本代表やセブンスの日本代表合宿にも呼ばれ、3年時には高校日本代表のキャプテンを務めた。

 早稲田では何人分以上にも匹敵する貢献で、苦しむ早稲田を4年間苦境の淵から救い続けた。昨年春にパナソニックにプロ選手として就職。あの日本が誇るスターチームでルーキーながらトップリーグ今季初戦でスタメンデビューを果たした。先月の東芝とのリクシルカップ決勝や帝京との日本選手権でも、両チームFWで一番小さな体をタフにぶつけ続け、パナソニック日本一に貢献した。
 
なんと、その僅か2日後だ。突然の電話が布巻さんの方からきた。「お久しぶりです!ぜひ練習に行かせてください!」


 1年半前、夏合宿で早稲田大学ラグビー部にコーチングしてもらうという奇跡の体験があった。その際にごく短時間だが最も温かく丁寧に教えてくださったのが、当時4年生の布巻さんだった。それから1年以上経った昨年秋、早慶戦の観客席でたまたま目にして「あの時はありがとう」とお礼を言ったところ、「またぜひ行かせてください」と返してくれた。
 社交辞令とはいえ、布巻さんほどの大スターが丁寧な口調で応えてくれるなぁと感心した。まさかパナソニックのある群馬からわざわざ横須賀の田舎まで来てもらうなんてありえない。そんなおこがましいこと、全く想像もしなかった。のに。

 

 2月7日、怪物現る。この土の横高グランドに。あっという間の夢の3時間。この日フォーカスしたのは、布巻さんが最も得意とするブレイクダウンとタックル。実は前日までに横高の課題を聞き、しっかりと計画されたセッションだった。
 いつもテレビ画面の中で見ていたあの「ヌノマキ」が、土のグランドで一緒に動いて砂ぼこりを浴びながら、一人ひとりに手取り足取り優しく丁寧に教えてくれている。教えてくれた一つ一つが本当に新鮮な新しい考えばかり。素敵な思い出だけでなく、明らかに個人とチームのステップアップに直結する素晴らしい内容だった。


布巻峻介さん

『選手の皆さん、今日は本当にありがとうございました!!みんなの頑張る姿を見て、いっぱい勉強になったし、元気をもらいました!!これからも今のように前に進み続けてください!応援しています!また遊びに行きます!』


 

 エネルギーには2種類ある。苦しみに耐える力。「逃げたくない」「こんちくしょう」と踏ん張る意地。プライド。責任。この力がなければ、世の中に出てもいちいち言い訳と逃避ばかりの人生になってしまうだろう。

 もう一つは、上に飛躍したいと願うポジティブな気持ち。言い換えればそれは「夢」や「憧れ」という名の大きな力。この10日間、「憧れ」という無限の力を生んでくれるであろう真にカッコいい男たちを目にしたはずだ。


 諦めるのは簡単だ。いつでもできる。自分を創るのは、自分だけなのだ。




あの「ヌノマキ」が喜よし食堂に!

 

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