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菅平合宿2012 『自律と自立』

2012/08/16

 小さな町に100面以上のラグビー場。通行人も店も商品も、夏のこの町には、概ねラグビー以外のものは存在しない。何年も来ると、この自然と山々に神々しさと深い畏敬の念を抱くようになる。この地に立つという事実だけで幸せだと感じるようになる。2012年8月9日、岩田組の菅平合宿が始まった。
 
合宿1日目
 朝6時半、横須賀高校発。若干の事故渋滞を経て12時半、菅平着。毎年お世話位なっている山喜荘にチェックインし、すぐにグランドへ走って移動。いきなりのビッグゲーム。この合宿の強豪校シリーズの初戦、盛岡工業戦だ。
 相手は花園常連校。今年の全国選抜大会も東北代表として出場しているラグビー界では名の知れた強豪だ。やっとケガ人が多く復帰し、ベストに近い状態となった横高。秋の花園予選を想定して一次合宿で新しく取り組んできたアタックとDFをぶつけ、戦術に磨きをかけたいところだ。

 前半はまだ相手の集中力がある時間なのに個人が強引に行き過ぎて、攻撃が回転せず試合がブレイクできない。しかし、まさに取り組んできたアタック方法で1本トライを奪うと、DFも活気づき再三相手ボールを取り返すことに成功。
 後半もしつこくDFして取り返したボールを素早く動かして効率よくスコア。最後の1本も着手しているイメージ通りの見事なトライ。単純なキャッチミスが基点で奪われた1トライのみに抑える「40-5(25分×2)」という大勝で合宿をスタートすることができた。
 BCゲームに関しては、1年生がやっとラグビーらしいラグビーを経験することはできたが、アタック精度が低く「7-12(15分×3)」という敗戦となった。

 BC戦後に「もう1本だけお願いします!」と盛岡工業Aのメンバーが全員で頭を下げてきたことから15分1本の追加AD。アイシングをしていたAは気持ちを切り替えようとするもできず。「ラグビーってのはなぁ、ルールのある喧嘩なんだよ!」と盛岡工業監督が口にするとおり、このADは盛工の気迫に押される結果となってしまった。
 とはいえ、初戦は掲げたテーマの半分を達成。全国区の強豪を大差で下したことも十分意義のある経験となった。ミーティングを終えて23時就寝。
 
盛岡工業のスポットコーチで来ていた田中澄憲さん(サントリー・元ジャパン)にアドバイスをいただきました。

2日目午前
6:20分 散歩+軽いスキル練習
8:30 この合宿で唯一となる単独練習。前日の課題をメニュー化したものを2時間半行った。コーチングをしながら、ずっと隣のグランドが気になっていた。凄まじい迫力と集団行動美がほとばしるチームがいる。根性系チームか。いや、よく見ると一つひとつのプレーの基礎も、かなりしっかりしている。「ハイ!!」「いいえ!!」「ありがとうございます!!」異常なほど大きくキレのいい声が延々と響きわたる。異常なほど強固な規律が保たれた集団。歩き去りながら何かを語る監督を追いかけながら、部員の一糸乱れぬ塊が「いいえ!」「いいえ!」「いいえ!」と鋭く叫び続ける。
 あまりの異様な光景に「きっとUチューブで筑紫の特集を見て監督が感化された高校だな」と思って見ていると、バッグには「Chikushi」の文字が。どうやら本家本元の福岡県立筑紫高校だった。日本一の自由奔放な天才集団・東福岡のライバルとして、「自衛隊よりも軍隊より強固な規律と忠誠心」で知られている筑紫高校。東福岡が花園の決勝を30点近い大差で下して日本一になった年でも、実は福岡県予選の決勝で筑紫とは5点差。「ヒガシ」と「チクシ」。「自由」対「規律」。「才能」対「魂」。筑紫だとわかっていたら、練習を早く切り上げてでも「筑紫の規律と魂」を見学したのに。
 

2日目午後
 相手は福島県代表として東北大会に出場している平工業。Aは合同練習、Bは短くゲームを行った。レギュラー争いが特に熾烈なFWにとっては、Bでのゲームは相手との戦いであり、ポジションを争うライバルとの戦いでもある。前日の盛岡工業戦でCからAに上がったFLタカヒロのように、猛烈なアピールをしたいところだ。
 試合展開は、BC縦割り状態の横高が攻守にわたり圧倒して「29-0」で前半終了。後半はAのメンバーを複数出してきた平工業に苦戦し「0-7」、トータル「29-7(20×2)」で勝利した。
 夜は国内外のトップ選手のプレーを編集したものを使った映像ミーティング。いま横高が目指す特徴的なプレーを、トップ選手の模範を見てイメージした。

平工業戦のマンオブザマッチはエイイチロウ
 
3日目午前
 前日と同じく6時半散歩。近くの広場で体操とハンドリング練習。が、朝っぱらから重い説教タイムとなった。多くのメンバーが疲れているときに疲れている顔をし、雰囲気が良くないチームに拍車をかける。キャプテンやバイスキャプテンが声のトーンを一つ上げて空気を換えようとしているのに、他の部員が全く気づこうともせずに暗い雰囲気のままこなしている。ストレッチの時間にも、ただ沈んだ顔をして適当な動き。真剣に自分の筋肉と会話をしようとしていない。何のために今の時間があるのか、当事者として考えようとしていないのだ。

 きつい時にきつい顔、誰かがのせてくれないとテンションが高まらない、チームの空気を自分が変えようとする意志が全くない。こんな個人が構成するチームが格上に勝てるわけがない。与えられた練習メニュー、与えられた戦術、与えられたリハビリメニュー。それらに受け身になり、自ら考えようともせず、口をあけて餌を待つような個人とチームが、絶対に勝負どころで戦い抜けるわけがない。
 自分の心は自分自身でコントロールする。チーム全体の空気もメンバー自身が気づき、声を掛け合って作り上げる。勝者としてあるべき姿を考え、ふさわしい振る舞いと行動を選ぶ。自律と自立。チーム力向上以外にこの合宿で達成すべき大きなテーマが、この日の朝の散歩で生まれた。

 
 午前の相手は埼玉3位の正智深谷高校。数年前まで花園ベスト4や8に入っていた超強豪校。外国人留学生がいなくなり花園出場を逃しているが、それでも明大中野との関東大会で五分五分の戦いをするなど、実力は十分あるチームだ。実は関東大会では大東大一以上に目を引くサイズ。100キロ超えがずらりと並ぶ(最重量は140キロ…)。横高が掲げる高速アタックでどれだけ重量級チームを振り回せるか、コンセプトの明確な試合となった。
 JAPANが海外と戦うために掲げている4H(低く、速く、激しく、走り勝つ)を意識して戦うも、序盤は相手の重さに仕留め切れない。タックルで相手を倒すのに時間がかかり、ボールを繋がれてしまう。アタックも蹴られたボールを2回連続で落とすなど、ゲームを自らのミスでこう着させてしまう展開だった。

 それでも攻守の速さにこだわってプレーしていると、いつの間にか横高らしいトライが生まれ始める。前日の映像ミーティングで見たシェーンウィリアムス(ウェールズWTB)のステップワークをそのまま真似したケントが相手を抜き去ってトライを奪うと、そこからはトライラッシュ。終わってみれば「87-0(30分×2)」という記録的大差で正智深谷を下した。
 ところが、そんなAのゲームがかすむほど素晴らしかったのがBゲーム。ユウヤ、シゲル、ユウマ、リョウスケらBの2年生が鬼気迫るタックルを連発すると、触発されたように1年生も果敢なタックルを繰り返す。試合時間のほとんどが相手ボールだが、延々と前に出るひざ下タックルを繰り返したBチーム。どうやってトライを取ったかも記憶に残らないほど泥臭いラグビーで、「21-14(20分×2)」と正智深谷Bを見事に下した。
 

3日目午後
 東海大甲府Bとのゲーム。だったはずが…。キックオフ直後にびっくり。相手はAの選手が大量に出ているじゃないか!「参ったなぁ」と思いつつも、「せっかくの機会だ」と割り切ってBのチャレンジを見守った。低く入るタックルの相手の超高校級LOにはボールを立って繋ぐための土台となり、力差を見せつけられる失トライ。気持ちはあれど相手のスタンディングラグビーを地面に倒せず、前半は「5-21」で終えた。
 後半、やっとBっぽいメンバーとなった東海大甲府に対して午前中のような泥臭いラグビーを展開。キックとDFでトライを奪った。

 しかし残念ながら最後の5分で執念が切れ、急に意欲が鈍って失トライ。午前から75分も立派に戦ってきたのに、ラスト5分で心の弱さを露呈して失トライ。結局「24-28(20分×2)」で敗れてしまった。
 合宿のゲームも明日がいよいよラスト。誰もがどこかに痛みを抱えているが、足がちぎれようが強気で乗り越えるしかない。
 
4日目午前
 いよいよこの合宿のメインゲーム。国学院栃木戦だ。昨年度関東チャンピオン。花園ベスト8(東日本で唯一のAシード)。今年の関東大会でもBブロック決勝で千葉1位の流通経済大柏を「45-12」で下して優勝している。頼み込んで組んでもらったゲームは、Aは1本、Bが2本、Cが1本の合計4本。横須賀AがコクトチAとコクトチBの前半、横須賀BがコクトチBの後半とコクトチCというマッチング。4本組まれてはいるが、コクトチA戦が最高のビッグチャレンジ。仮想桐蔭として結果と過程にこだわる重要な試合だ。

 キックオフからお互いの攻防は一進一退。ボール保持率とエリア支配率はおそらく横高が若干優位だ。取り組んでいるDFで相手アタックを何次でも封じ続けているのに、最後にノットロールアウェイを繰り返してエリアを失う惜しい展開。FWアタックは相手ゴールライン直前で攻め続けるも1m届かない時間が長く続く。BKアタックはイメージ通りのアタックで完璧にインゴールを陥れる(陥れたはずなのにスローフォワード??…)など、攻守にわたりあと一歩が足りない。しかしロスタイムにトライを奪われるも、「7-5(30分×1)」の勝利。キック差とはいえ、勝ちは勝ち。内容も決してスコアを下回っていない。まだまだ伸びる余地、可能性を十分感じさせながら高校ラグビー界のトップチームに勝利する貴重な経験を得た。

 続くA対コクトチBは「12-0(25分×1)」で勝利。残念ながらB対コクトチBCの2本は力差がありすぎてゲームにならず。必死でFWがタックルを繰り返すもBKがザル状態。FWが死ぬ思いでタックルを繰り返してはBKがあっさり破られ、下がり続けることでフィットネスも切れ、打つ手なし。

 横須賀の名に泥を塗る最悪のスコア「0-55(25分×2)」で終了。気概はあった。原因はBKの実力不足のみ。では仕方ないか。いや、ここでも「自立」が敗因だ。1年生は入部して4ヶ月、はたして本当に上手くなりたくて、ラグビーを追究してきただろうか。目の前のことは確かに必死にやってきた。しかしラグビーのセオリーを本当に覚えようと能動的に学習してきただろうか。アタックもDFも「分かりません、知りません」が多い。そんな素人状態でコクトチBCと戦えば、これほど無残な目に合わされるのは必然だ。Aの先輩を捕まえたりビデオを研究したり、積極的にラグビーを覚えようとしてきたならこの惨劇はきっとなかった。一生懸命ではあったが、間違いなく受け身。「先生や先輩が教えてくれたことなら覚えました」という餌待ちの状態だったということだ。
 自分でラグビーのセオリーを覚える。自分で自分の理想のプレーヤー像を描き、近づく方策を考え、自分の意思と手段で達成しようとすること。やはり、「自立」と「自律」だ。
 

4日目午後
 いよいよ迎えた最後のゲーム。3年生にとっては、高校生活最後の菅平ゲーム。感慨深く、少し感傷的な気持ちを含みつつ燃え尽きようとする3年生。そんな3年生に最高の形で合宿を完結させてやりたい下級生。ボロボロな体と湧き出る闘志で、東京の強豪・早稲田実業と戦った。早実は関東大会予選は順位決定戦で敗れて東京7位。横高優位は間違いないが、のちに早稲田大学で多数の選手が活躍していることなど、一人ひとりのポテンシャルの高さは計り知れないチームだ。
 試合は前半から横高が圧倒。格の差を見せつけるダイキのランなどでトライラッシュを築き、前半ですでに「55-5」。後半はさすがに疲れが出て「19-7」と失速するも「74-12(25分×2)」という大勝で合宿最終戦を締めくくった。
  
 横高BはほぼCともいえるチーム構成。しかし相手は、早実Bではなくほとんど早実A(数名だけB)。明らかなミスマッチとなってしまった。午前同様、BK力に勝負にならない差があり、20分1本で「5-42」と大敗。下級生にとっては、決して忘れられない、忘れてはいけない屈辱的経験となった。「3年生のために絶対に」、その気持ちは確かだった。気迫も覚悟も根性も存在した。しかし実力だけがついてこなかった。これをスタート地点にできるか、宿に帰ってすぐに今の気持ちと覚悟を一人ひとりがラグビーノートに書き記した。
 

 
ケンタ
『高校生活最後の菅平合宿は充実感で満たされて終わりました。Aチームは強豪との試合を生活でしたが、下級生やマネージャーなど、たくさんの人に支えられてラグビーができているのだと思いました。三年は特に「ラグビーだけやれる幸せ」を感じれたと思います。残り僅かな期間ですが、来る花園予選までベストを尽くしたいです。』

 
ジュンペイ(盛岡工業戦 マンオブザマッチ)
『あっという間の4泊5日でした。1年生の時はあんなに長く感じたのに、3年生としての合宿は本当に一瞬でした。体はキツくても頑張ることができたし、ちょっとした自由時間に仲間とふざけあったりするのも本当に楽しかったです。今回の合宿もいろんなことがあり、たくさんの事を学びましたが、何より気合や根性が大事だということを千葉や匠、ほかのプレーヤーから感じました。これからも気持ちの部分を大切にして練習していきたいです。』

 
ダイキ(貫録のトライ王)
『今年の合宿は強そうな相手との試合が組まれていて、合宿前からとてもわくわくしていました。そういった強い学校との試合を重ねる中でチームの成長を感じられるいい合宿だったと思います。チームの課題も見えました。また、個人としても特にディフェンス面で未熟な面が多かったと思います。集中して夏の残りを有意義なものにしたいと思います。』

 
匠(マンオブザキャンプ2012)
『とうとう最後の合宿が終わりました。身体はとても痛かったり疲れたりしましたが、試合ばかりでとても楽しかったです。なにより、強豪校との試合で、自分に足りないものや、通じた部分も見つかって、とても良い収穫となりました。そして、花園予選までいよいよ3ヶ月を切りました。最後までチーム一丸となって頑張ります。』

 
ユウマ(FW賞)
『この合宿で負けたくない、勝ちたいという気持ちがいっそう強くなりました。でも、まだまだタックルもヒットもサポートも、他チームに通用しきってないので、夏休みの残りで先輩たちに頼りにされるくらい実力をつけます』

 
ケント(BK賞)
『先輩がいる最後の合宿だったのですが、やはり先輩の存在は大きく、学べることがたくさんあり、助けられました。また自分自身は上手くいったプレーもありましたが、やはり課題もみつかったので、日々の練習で克服していきたいです。精神的にも技術的にもとても成長のできた合宿でした。きつかったけど、今思うととても楽しかったです。』

 
シゲル(敢闘賞)
『このような賞を頂いて本当に嬉しいです。ですが、この合宿を通して多くの課題がはっきりとわかったので、この賞に満足することなく、これからも努力していきたいです。』

 
タイヨウ(敢闘賞)
『敢闘賞の一人に選ばれてとても嬉しいです。この合宿で、今の自分の力を出し切りました。ハーフのカバーディフェンスは、絶対にトライさせないという思いで、諦めず追いかけました。それを認められたことは、自信になり強みだということがわかりました。ここで満足せず、より大きく、速い敵も倒せるようになりたいです。みんなありがとう。』

 
トオル(敢闘賞)
『正直なところ、最初は不安でいっぱいでした…でも周りの笑顔と気迫に後押しされて、自らに喝を入れることができました。自信の無いフィットネスなりに走り回り、怯むを押し留めタックルに入り、ラインアウトもスクラムも連続して対人で組めたことで大きな成長になりました。』


駿介(敢闘賞・1年生ながら、全試合Aのスタンドオフとして出場) 
『自分より頑張っていた先輩がいました。自分より素晴らしいプレーをしていた先輩がいました。自分より気迫のこもったプレーをしていた先輩がいました。けれどもその中で自分を選んでいただいたことを忘れずに、日々、その先輩方に失礼のないように、さらに超せるように練習に励んでいきます。』



最終日はダボスで軽く?楽しく練習



1年生

2年生


3年生


 Aの結果をまとめると、国学院栃木に「7-5(30分×1)」。盛岡工業に「40-5」、正智深谷に「89-0」、早実に「74-12」。関東大会を終えて、自慢の両WTBが勉強専念期間、不動のSOがケガで療養中という中、秋に向けて自信を深める戦績を出すことができた。またBは「この記憶が本当のスタート」とすべき経験を刻むことができた。
 チーム全体として、この合宿で一番のテーマとなった「自律」と「自立」。すぐには育つものではないが、その芽は小さいながらも確かに息吹いた。一人ひとりがこの芽を大きく育てることができるか。秋の決戦をきっと大きく左右する。



菅平と支えてくださっているすべての方に感謝

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