神奈川県立横須賀高校ラグビー部
デビュー戦 『最も横高らしく』
2016/06/06
誰にとっても「人生初試合」は一度きりだ。興奮と不安、若干の後悔。短い時間の記憶は、断片的でも一生残る大切な記憶となる。本気でぶち当たってくる相手に対して、己の身体を槍と化して突き刺さる。そんな事態がこれまでの15年間であったわけがない。ゲームが終わって夜になってもまだ若干の興奮が消えない。翌朝の体の痛みが、なぜだか悪い気がしない。
6月5日、71期ラグビー部のデビュー戦「平塚学園戦」が行われた。神様がくださったコンディションは雨!
この学年の特徴は、「元気溌剌」。何かの商品のキャッチコピーみたいだが、その言葉以外に思いつかない。あまりにも色々なことへの反応が純粋なので、こちらが少し気恥ずかしくなってしまうほど。その明るい雰囲気は、先日の新入生交流タッチフット大会でも他の5校を圧倒するほどだった。
上級生のセブンス試合が終わり、いよいよキックオフ直前。1年生を担当する住浦コーチと後藤コーチが、自らが台となって生身でぶち当たらせて士気を高めた。このスイッチオンも良かった。
この試合前に話すことは毎年同じだ。
「タックルできるやつが一番偉い」
アタックでは自分の好きな選択肢を選べばいい。パスでもステップでもヒットでもキックでも。自由を楽しめばいい。しかしDFでは選択肢はない。相手が突っ込んでくる。きっと痛い。だから怖い。選択肢はタックルしかないのだ。できることなら、相手が自分の守備範囲から隣の守備範囲へ行き去って欲しいのに。
ラグビーはつくづく自分の弱い部分と対峙させてくれる。逃げるのか、フリをしてごまかすのか、勇気を出すのか、責任感が勝るのか、負けん気やプライドが自分を突き動かすのか。試合中のほとんどのプレーで己の人間として本質が問われる。まさにその象徴がタックルだ。だからこそ、タックルができる人間は、それだけで何にも勝る尊敬を勝ち取ることができるのだ。
「ゲームが終わった後、このチームで一番偉いのは俺だって言えるように頑張ろう!」
そう伝えてピッチに送り出した。
素晴らしいゲームだった。キックオフ前から全員で一体感と闘争心を呼び起こす大きな声を出し、味方のナイスプレーを心から称えあい、味方のミスは励ましあった。何しろこの経験値とこの天候だ。自分たちで準備したつもりのサインプレーなど上手くいくわけもない。前へ、前へ、ただ気迫だけ。
この試合の一大テーマだったDF時のメンタルと葛藤。「タックルにいくのか、逃げるのか」そんな場面は一度もなかったのかもしれない。なぜなら、もうとっくに飛びかかっているのだ。相手がボールを持つと、考えるも迷うもなく、俺が俺がと複数で仕留めにかかっている。全く間を与えてもらえない相手に対して、DFでもひたすら前へ前へ。
敵陣ゴールライン付近の相手スクラムでも、ノーフルバック状態(キックケア皆無!)で15人が一斉に前にタックルに向かったのには驚いたが、ひたすら前に出て、刺さって、叫び続けた。かつてのどの代の上級生たちよりも、勇ましく声が響いた。
「横須賀!アッゲアゲー!!」
デビュー戦なのに、過去数年で最も「横須賀らしい」と言いたくなるような空気が、雨上がりの空に溌剌と漂った。
最終スコアは「22-0」。実は相手チームには4人の2年生が入っていたこと(本人たちは知らない事実)などすっかり忘れ去る快勝で、人生初試合を終えた。
ユタカ(ゲームキャプテン)
『まずこの素晴らしいチームのキャプテンとしてプレーし勝利することができてとても嬉しく思います。序盤は雨の中でのボールフィーリングに慣れず、ノックオンやパスミスが多々ありましたが、自分がギリギリの先制トライをしてみんなの雰囲気を上げることができました。
後半ではみんなも状況に慣れ始めて3トライをあげて結果「22-0」で勝利できました!試合中にアゲアゲコールを何度もしてメンタル面でも相手を圧倒できたことも素晴らしかったと思います。個人的にはパス、タックル、キックなど様々な課題が見つかりましたが、チーム全体はとても強いということが分かり収穫の多い試合でした。
デビュー戦から雨で泥んこまみれになり全員がラグビーの面白さ、カッコよさを充分に感じられたと思います。ここからセブンスの試合なども始まるので、今後も最高のチームになるようにしっかりとみんなをリードし、切磋琢磨して練習に励みたいと思います。』
ユウスケ(猛烈な突破の連続!)
『高校一年生としての初めての15人制のラグビーの試合をやりました。前半の最初は、僕も含めみんなが試合に慣れずあまり良いプレーができなかったが時間が経つにして、少し冷静になれて、タックルやスイープ、ヒットやステップなど良いプレー増えてすごく面白く、なお勝ててとても楽しい試合になりました。』
シンタロウ(攻守ともに勇猛果敢!)
『人生初のラグビーの試合はわからないこともおおかったけれど、仲間と声をかけあい良い雰囲気で試合ができたのでとても楽しかったです。また試合を通して、こわがらずに思いきりやることが大切なんだなあと思いました。トライをとれたときはとてもうれしかったです。この試合で学んだことを忘れずにこれからも頑張りたいと思います。』
さぁ、いよいよラグビー道の始まりだ。タッチラグビーがラグビーに変わり、これからはタックルなどコンタクトプレーが当たり前になる。相手を倒すためのビルドアップも必要だ。前述のとおり、ワンプレーごとに、一日、一週間ごとに、弱い自分と対峙し続けることになる。ラグビーというスポーツ自体も存分に楽しむ気持ちで取り組んで欲しいが、たくましく、真にカッコいい男へと変わりゆく自分を楽しんで欲しい。
この組織における「エンジョイ」とは、そういうものだ。
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